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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)7700号 判決

原告

岡田直之

被告

株式会社エールコーヒー

主文

被告は、原告に対し、四〇六八万七三七〇円及びこれに対する昭和五七年三月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、八六七一万九八六三円及びこれに対する昭和五七年三月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五七年三月七日午後六時ころ

(二) 場所 山梨県北巨摩郡小渕沢町大字上笹尾七九番地中央自動車道上り線路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通自動車(多摩四四た四〇四八)

(四) 右運転者 渡邉義久(以下「渡邉」という。)

(五) 事故の態様 渡邉は、加害車を運転して本件事故現場を走行中、進行方向右側の中央分離帯に接触し、その反動で左側のガードレールに衝突し、再度中央分離帯に衝突し、加害車後部座席に乗車していた原告に後記傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告は、加害車を所有し自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  受傷状況

原告は、本件事故により右大腿部切断、頭部顔面・両上肢挫創、脳挫創、出血性ショックの傷害を受け、昭和五七年三月七日から四月五日まで韮崎市国民健康保険韮崎市立病院に入院し、同日から九月三〇日まで東京厚生年金病院に入院し、昭和五八年四月六日から六月一一日まで同病院に入院し、九月一一日から昭和五九年二月一六日まで韮崎市立病院に入院し、その間昭和五八年八月五日から九月九日まで日本大学板橋病院に通院し(実日数一四日)、昭和五九年一二月九日同病院に通院し、昭和六〇年三月六日から五月一三日まで同病院に通院し、昭和五九年一一月二日東京厚生年金病院に通院し、昭和六〇年一月九日韮崎市立病院に通院し、昭和五九年二月二八日から昭和六〇年四月二六日まで東京Soubi鍼灸院に右大腿部切断後の切断部の疼痛を軽減するため、針治療を受けた。更にその後、疼痛を軽減するため日本大学板橋病院に通院し(実通院日数二一日)、東京Soubi鍼灸院で針治療を受けた(実通院日数五八日)。

原告は、昭和五九年二月一六日症状固定の診断を受けたが、右大腿切断、右下肢短縮五六センチメートルの後遺障害が残り、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表四級五号の後遺障害が残つた。

4  損害

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。

(一) 治療費 二一六万二四九四円

原告は、本件事故により受けた傷害の治療のため、前記各病院の入院治療費として一七二万四五三九円を要し、昭和五八年八月五日から九月九日まで日本大学板橋病院に通院し(実日数一四日)、この間の治療費として一万六二二五円を要し、昭和五九年一二月九日同病院に通院し、その治療費として二〇〇円を要し、昭和六〇年三月六日から五月一三日まで同病院に通院し、この間の治療費として一万八六九〇円を要し、昭和五九年一一月二日東京厚生年金病院に通院し、その治療費として八四〇円を要し、昭和六〇年一月九日韮崎市立病院に通院し、その治療費として三四八〇円を要し、昭和五九年二月二八日から昭和六〇年四月二六日まで東京Soubi鍼灸院に右大腿部切断後の切断部の疼痛を軽減するため、針治療を受け、この間治療費として一八万円を要し、更にその後、疼痛を軽減するため日本大学板橋病院に通院し(実通院日数二一日)、この間の治療費として一万五五二〇円を要し、東京Soubi鍼灸院で針治療を受け(実通院日数五八日)、この間の治療費として二〇万三〇〇〇万円を要し、合計二一六万二四九四円の治療費を要した。

(二) 再手術費用 三〇万円

原告は、前記の治療期間中に、断端形成術を四回施行しているが、現在も断端の疼痛があり、再断端形成術の施行が必要となる虞がある。右の断端形成術の費用は右金額である。

(三) 付添看護費 一一七万六〇〇〇円

原告の前記入院期間中、二九四日間付添を要したが、その費用は一日当たり四〇〇〇円とするのが相当である。

(四) 付添看護交通費 五五万九二四〇円

右看護中の通院費は、左記金額の合計である。

(1) 韮崎、烏山間(韮崎市立病院)、昭和五七年三月七日から四月五日まで、一三万二五四〇円

(2) 烏山、飯田橋間(東京厚生年金病院)、昭和五七年四月五日から九月三〇日まで、九万三四二〇円

(3) 烏山、飯田橋間(東京厚生年金病院)、昭和五八年四月六日から八月一一日まで、三万九一二〇円

(4) 韮崎、烏山間(韮崎市立病院)、昭和五八年九月一一日から昭和五九年二月一六日まで、二九万四一六〇円

(五) 入通院交通費等 一八万三五六七円

原告は、右各病院の入通院のため交通費等として右金額を要した。

(一) 一回目 七万八四三八円

ア 外来診療費、通院日数二八日(厚生年金病院) 一万〇六七〇円

イ 包帯代 二四二八円

ウ 文書料 五〇〇〇円

エ レンタカー代 三万〇三〇〇円

オ ガソリン代 一万九八四〇円

(二) 二回目 七万一七四七円

ア 外来診療費、通院日数四日(厚生年金病院) 一万一三九七円

イ 外来診療費、通院日数二日(日大板橋病院) 四万六三五〇円

ウ ガソリン代 一万四〇〇〇円

(三) 三回目 一万五九三五円

ア 外来診療費、通院日数一一日(日大板橋病院) 六〇三五円

イ ガソリン代 九九〇〇円

(四) 四回目 一万七四四七円

ア 義足負担金 七五〇〇円

イ 外来診療費(日大板橋病院) 六九八七円

ウ 体温計(韮崎市立病院) 四〇〇円

エ 烏山保険相談所 一二六〇円

オ 高速道路料金 一三〇〇円

(六) 義足修理のための交通費 五四〇〇円

原告は、義足修理のために交通費として右金額を要した。

(七) 入院雑費 四三万四〇〇〇円

原告は、右入院期間(四三四日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円を要した。

(八) 義足修理費 一万〇三〇〇円

原告は、大腿義足修理費として右金額を要した。

(九) 将来の義足費 三〇〇万五五九九円

大腿義足は、機能的にみて二年間の経過により製作し直す必要があり、原告の平均余命は五一年であるから、二五回製作し直す必要がある。その金額につき年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、右の現価は右金額となる。

(一〇) 自動車買換損害 六六万三八八〇円

原告は、本件事故により右大腿切断の障害を受けたため、従前使用していた車両を使用することができなくなつたため、原告が使用できる装備をつけた車両と買い換えたが、その費用として右金額を要した。

小計 七九〇万六〇六二円

(一一) 休業損害 四一九万二九六八円

原告は、本件事故当時株式会社餃子の王将チェーンに勤務し、勤務後は株式会社常善でアルバイトをして稼働しており、王将から月額一三万五七三三円、常善から月額四万〇九五〇円の収入を得ていたが、本件事故のため、昭和五七年三月七日から症状固定日である昭和五九年二月一六日までの七一二日間休業した。原告の日収は、前記の収入から算出すると五八八九円であつたから、これを基礎とし、次の計算式のとおり四一九万二九六八円と算出した。

(計算式)

五八八九円×七一二=四一九万二九六八円

(一二) 逸失利益 六八二五万〇九五四円

原告は、症状固定時二四歳であり、前記後遺障害のため、四三年間にわたり九二パーセントの労働能力を喪失したものである。原告の前記収入は、若年のため低額であるので、右を基礎として長い将来に亙つて逸失利益を算出することは適切ではない。したがつて、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計、全年齢平均の男子労働者の平均賃金四二二万八一〇〇円を基礎とすべきであり、右金額を基礎とし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、原告の逸失利益は次のとおりの計算式により六八二五万〇九五四円となる。

(計算式)

四二二万八一〇〇円×〇・九二×一七・五四五九=六八二五万〇九五四円(円未満切捨て)

(一三) 入通院慰藉料 三〇〇万円

原告の本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

(一四) 後遺障害慰藉料 一三七三万円

原告の本件事故による後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

小計 九七六七万四四〇二円

(一五) 損害のてん補 一七九五万四五三九円

原告は、被告及び自賠責保険から後遺障害慰藉料として一三七三万円、休業補償として二五〇万円、治療費として一七二万四五三九円の支払を受けた。

合計 七九七一万九八六三円

(一六) 弁護士費用 七〇〇万円

原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用としては、右金額が相当である。

合計 八六七一万九八六三円

よつて、原告は、被告に対し、右損害金八六七一万九八六三円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五七年三月七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)の事実中、被告が加害車を所有していることは認め、その余は否認ないし争う。被告は運行供用者には当たらない。

本件事故は、被告所有の加害車を被用者である後藤卓(以下「後藤」という。)が、被告に無断で渡邉に運転させて発生した事故である。被告は、後藤に対し、加害車を通勤及び営業に使用させていたが、業務以外の使用を厳禁し、かつ第三者に運転させることも禁じていた。本件事故当時、加害車は、被告の業務とは全く関係のない、後藤、渡邉、原告らの私的な目的で長野県八子ヶ峰スキー場の行き帰りに使用されたものであり、かつ渡邉と被告間にはなんらの人的つながりもない。よつて、被告は、本件事故当時加害車に対し、運行利益及び運行支配のいずれも喪失していたとみるべきである。

3  同3(受傷状況)の事実は知らない。

4  同4(損害)の事実中、(一五)損害のてん補は認め(ただし、被告の支払つた治療費は、原告の主張額より二〇〇〇円少ない。)、その余は知らない。

三  抗弁

1  共同運行供用者であることによる他人性の喪失

仮に、右主張が認められないとしても、原告は、単なる同乗者ではなく、運行供用者たる地位にあり、かつ加害車に対する具体的な運行支配・利益は、被告に比べ直接的、顕在的、具体的であるから、自賠法三条の他人には当たらないというべきである。

(一) 原告は、高校時代からの友人である、後藤、熊井聡(以下「熊井」という。)、渡邉と長野県八子ヶ峰スキー場に日帰り旅行することを本件事故の一週間くらい前から計画し、本件事故発生日の早朝午前四時ころ、加害車に同乗して原告宅を出発した。このとき原告らは、加害車の屋根にスキーキャリアを設置し、それにスキーを載せていた。原告ら四名は、いずれも運転免許証を取得していることから、交替で運転することを予め決めており、原告宅を出発したときは後藤が運転し、途中渡邉が運転を替わり、スキー場に到着した。原告らはスキーを楽しんだ後、午後五時ころ帰宅のためスキー場を出発したが、このときは原告が運転し、途中の中央自動車道諏訪南インター入口で渡邉が替わつて運転し、午後六時ころ本件事故が発生した。このように加害車は、専ら原告ら四名の個人的な娯楽であるスキー旅行のため運行されたもので、しかも、原告は、本件事故直前まで自ら加害車を運転していたのである。右事実に徴すると、本件事故当時の運行は、原告ら四名の共同目的を遂行するものであつたから、加害車は、原告らの共同の支配下にあり、同人らの共通の利益のため運行の用に供されていたものというべきであるから、原告は単なる同乗者ではなく、原告自身が加害車の運行供用者に該当するというべきである。

(二) 更に、原告の運行支配運行利益の程度は、被告のそれが間接的、潜在的、抽象的であるのに対比して、直接的、顕在的、具体的であつたのは、前記の事情から明らかであるから、このような地位にある原告には、被告に対して自賠法三条の他人であることを主張できないと解すべきである。けだし、原告は、単なる同乗者とは異なり、加害車の運行に直接関与していたことによつて、自己に危険が生じることを当然に認識すべきであり、また、自ら事故を防止すべき立場にある者でありながら、それを怠つたのであるから、事故が発生して被害者となつても、救済されず、自賠法三条の他人としての保護を受け得ないのはやむを得ない。

2  好意同乗等による滅額

仮に被告の責任があるとしても、原告の損害につき被告が賠償する範囲は多くとも三割を超えるものではない。本件事故は、原告ら四名のスキー旅行から帰る途中に発生したものであること、直接の原因は、渡邉の速度超過と操作ミスによるものとしても、このような運転を原告は容認していたものであること等の事情は、滅額事由として斟酌すべきである。更に、原告は、本件事故直前まで加害車を運転していたのであるから、本件事故当時単なる好意同乗者ではなく加害車に対し、運行供用者性を有していたことは明らかであり、これを減額事由として斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1(共同運行供用者であることによる他人性の喪失)及び同2(好意同乗等による減額)の各事実はいずれも争う。被告は加害車を所有し、被告の従業員である後藤が、加害車を営業に使用するほか、通勤に使用すること(後藤の住所地である東京都豊島区西池袋から被告の営業所のある武蔵野市中町二丁目一六番一号まで)を認めており、更に、休日に使用すること、後藤の自宅への持ち帰り、私用運転することを認めているものであり、原告は、本件事故当時加害車の後部座席において、単に同乗していたに過ぎないものであり、加害車についての運行支配、運行利益を有していなかつたから、被告に対して、自賠法三条の他人に該当するものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実について判断する。

(一)  被告が加害車を所有していることは当事者間に争いがない。

右によれば、特段の事情がない限り、被告は、加害車の運行供用者であるから、その特段の事情の有無について判断する。

右争いのない事実に、成立に争いのない乙一号証から七号証まで、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一七号証(後記措信しない部分を除く。)、被告会社代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

被告は、加害車を所有し、被告の従業員である後藤に対し、加害車を営業に使用するほか、通勤に使用すること(後藤の住所地である東京都豊島区西池袋から被告の営業所のある武蔵野市中町二丁目一六番一号まで)を認めていた。被告としては、加害車の私用運転を禁じてはいたものの、後藤に対し、通勤にまで使用させているにもかかわらず、私用運転を確実にさせないために何らかの措置を取るということはしなかつた。そのため、後藤は休日等に加害車を運転してしばしば原告宅に遊びに来ることがあつた。

原告は、高校時代からの友人である、後藤、熊井、渡邉と長野県八子ヶ峰スキー場に日帰り旅行することを本件事故の一週間くらい前から計画し、みんなで替わるがわる運転を担当することにしていたので、原告や渡邉も車両を所有していたが、どの車両を使用するかは決めておらず、四ドアのセダンよりも後ろに荷物が積めるライトバンの方がよいということになり、後藤が自分の会社(被告)の車両を出そうと言つて、加害車で行くことになり、原告ら四名は、本件事故発生日の早朝午前四時ころ、加害車に同乗して原告宅を出発した。このとき原告らは、加害車の屋根にスキーキャリアを設置し、それにスキーを載せていた。原告ら四名は、いずれも運転免許証を取得していることから、交替で運転することを予め決めており、原告宅を出発したときは後藤が運転し、途中渡邉が運転を替わり、午前八時三〇分ころスキー場に到着した。原告らはスキーを楽しんだ後、午後五時ころ帰宅のためスキー場を出発したが、最初は、原告が運転し、途中の中央自動車道の諏訪南インター入口で、原告が疲労していたように見えたので、渡邉が運転を替わるように申し出、渡邉が替わつて運転し、後藤は助手席に、原告と熊井は後部座席に乗車していた。渡邉は、中央自動車道を東京方面に向けて時速一〇〇キロメートルの速度で進行中、午後六時ころ前記態様の本件事故が発生した。

以上の事実が認められ、被告は、後藤に加害車の私用のための使用を厳禁していたと主張し、被告代表者は、そのために後藤に営業日報を作成させている旨供述するが、提出された営業日報(乙八号証)は、そのごく一部であり、同人の供述するその他の部分を提出できない理由は極めて不自然であつて、右供述及び乙八号証は到底措信できず、前掲甲一七号証中、前記認定に反する部分もまた措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右事実に徴すると、被告の従業員である後藤が加害車を私用のため使用したものであるが、被告の加害車の管理状況から見て、本件事故当時、被告が運行供用者性を喪失していたとは到底言えないことは明らかである。そうすると、被告は、本件事故当時加害車の運行供用者であつたものであるから、自賠法三条により原告の後記損害を賠償する責任があるというべきである。

三  抗弁(共同運行供用者であることによる他人性の喪失)及び同2(好意同乗等による減額)について判断する。

(一)  共同運行供用者であることによる他人性の喪失

被告は、右の点につき、本件事故当時加害車は、被告の業務とは全く関係なく、無断で使用されていたものであり、原告ら右四名の発案に基づいてスキー場へ行つた帰りであつたから、本件事故当時加害車は、原告らの共同の支配下にあり、同人らの共通の利益のために、運行の用に供せられていたものというべきであるから、原告は、加害車の運行供用者に該当し、自賠法三条の他人に該当しない旨主張するので原告が加害車の共同運行供用者であるか否かにつき判断する。

原告が運行供用者であるか否かということは、本来当該事故により損害賠償責任を負うか否かという観点から決せられるものであるから、仮に、事故により原告ら以外の第三者が被害者となつたとき、事故時に運転せずに、加害車に同乗していたに過ぎない原告が損害賠償債務すなわち運行供用者責任を負うかという視点から考察するのが妥当な思考方法であるところ、右視点からみると、原告ら四名が共同の目的で車両に乗車しているということから、直ちに運行供用者責任を負うものであるとはいえないことは明らかである。原告が、加害者側であるか、被害者であるかによつて、運行供用者であるか否かが異なるいわれはないから、原告が加害車の運行供用者であるとは認めることができない。

そうすると、原告は、自賠法三条本文にいう他人であるから、被告において、原告の後記損害を賠償する責任があるものである。

(二)  好意同乗等による減額

しかし本件事故は、前記のような事情により発生したものであり被告所有の加害車を、被告の従業員である後藤を介して、原告らが無償で使用した形態のものであるから、損害賠償の公平な分担という見地から、原告の損害額から相当額を減額するのが公平であり、前記諸事情の他本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の損害額の三割を減額するのが相当である。

なお、被告は、本件事故の直接の原因は、渡邉の速度超過と操作ミスによるものとしても、このような運転を原告は容認していたものである旨主張しているが、そのような事実は認められない。

四  同3(受傷状況)の事実について判断する。

原本の存在、成立ともに争いのない甲一号証の一から七まで、第二号証の一から八まで、成立に争いのない甲三号証の一の一、二、同号証の二、第四号証の一から一五まで、五号証から七号証まで、八号証の一から二二まで、一九号証の一から三まで、二〇号証の一から四まで、二三号証の一から七まで、二八号証の一から六まで、二九号証、原告の写真であることは当事者間に争いがない甲二五号証の一から五まで、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲二四号証の一から四まで、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故により右大腿部切断、頭部顔面・両上肢挫創、脳挫傷、出血性ショックの傷害を受け、昭和五七年三月七日から四月五日まで韮崎市国民健康保険韮崎市立病院に入院し、同日から九月三〇日まで東京厚生年金病院に入院し、昭和五八年四月六日から六月一一日まで同病院に入院し、九月一一日から昭和五九年二月一六日まで韮崎市立病院に入院し、その間昭和五八年八月五日から九月九日まで日本大学板橋病院に通院し(実日数一四日)、昭和五九年一二月九日同病院に通院し、昭和六〇年三月六日から五月一三日まで同病院に通院し、昭和五九年一一月二日東京厚生年金病院に通院し、昭和六〇年一月九日韮崎市立病院に通院し、昭和五九年二月二八日から原告主張の昭和六〇年四月二六日(現在も通院中)まで東京Soubi鍼灸院に右大腿部切断後の切断部の疼痛を軽減するため、針治療を受けた。更にその後、疼痛を軽減するため日本大学板橋病院に通院し(実通院日数二一日)、東京Soubi鍼灸院で針治療を受けた(実通院日数五八日)。

原告は、その間昭和五九年二月一六日に症状固定の診断を受けたが、右大腿切断、右下肢短縮五六センチメートルの後遺障害が残り、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表四級五号相当の後遺障害が残つた。しかも、症状固定とされた後も断端に疼痛が持続している。

以上の事実が認められる。

五  同4(損害)の事実について判断する。

1  治療費 二一六万二四九四円

前掲甲一号証の一から七まで、第二号証の一から八まで、第三号証の一の一、二、同号証の二、第四号証の一から一五まで、第五号証から七号証まで、八号証の一から二二まで、第一九号証の一から三まで、第二〇号証の一から四まで、第二三号証の一から七まで、第二四号証の一から四まで、第二五号証の一から五まで、第二八号証の一から六まで、第二九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により受けた傷害の治療のため、前記各病院の入院治療費として一七二万四五三九円を要し、昭和五八年八月五日から九月九日まで日本大学板橋病院に通院し(実日数一四日)、この間の治療費として一万六二二五円を要し、昭和五九年一二月九日同病院に通院し、その治療費として二〇〇円を要し、昭和六〇年三月六日から五月一三日まで同病院に通院し、この間の治療費として一万八六九〇円を要し、昭和五九年一一月二日東京厚生年金病院に通院し、その治療費として八四〇円を要し、昭和六〇年一月九日韮崎市立病院に通院し、その治療費として三四八〇円を要し、昭和五九年二月二八日から昭和六〇年四月二六日まで東京Soubi鍼灸院に右大腿部切断後の切断部の疼痛を軽減するため、針治療を受け、この間の治療費として一八万円を要し、更にその後、疼痛を軽減するため日本大学板橋病院に通院し(実通院日数二一日)、この間の治療費として一万五五二〇円を要し、東京Soubi鍼灸院で針治療を受け(実通院日数五八日)、この間の治療費として二〇万三〇〇〇円を要したことが認められる。なお、前記受傷状況からみて、症状固定とされた日の後の治療費も本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

2  再手術費用 三〇万円

前掲甲二五号証の一から五まで、成立に争いのない甲九号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、前記の治療期間中に、断端形成術を四回施行しているが、現在も断端の疼痛があり、再断端形成術の施行が必要であり、右の断端形成術の費用(国民健康保険を使用した場合の自己負担分)は、原告主張の右金額を下回ることはないものと認められる。

3  付添看護費 一一七万六〇〇〇円

前記認定の原告の受傷状況、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の前記入院期間中、二九四日間親近者の付添を要し、その間一日当たり四〇〇〇円の付添看護費を要したものと認められる。

4  付添看護交通費 四〇万円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一〇号証の一から四まで、原告本人尋問及び弁論の全趣旨の結果によれば、原告の付添看護のため、(1)韮崎、烏山間(韮崎市立病院)を昭和五七年三月七日から四月五日まで、(2)烏山、飯田橋間(東京厚生年金病院)を昭和五七年四月五日から九月三〇日まで、(3)烏山、飯田橋間(東京厚生年金病院)を昭和五八年四月六日から八月一一日まで、(4)韮崎、烏山間(韮崎市立病院)を昭和五八年九月一一日から昭和五九年二月一六日まで各通院看護のための交通費を要したことが、そのうち通院費は四〇万円が相当と認められる。

5  入通院交通費等 一〇万円

成立に争いのない甲一一、二六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告主張の費目につき控え目にみて一〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

6  義足修理のための交通費 五四〇〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一二号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は義足修理のために交通費として右金額を要したことが認められる。

7  入院雑費 四三万四〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、右入院期間(四三四日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇万円を要したことが認められる。

8  義足修理費 一万〇三〇〇円

成立に争いのない甲一二号証の三、四及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、大腿義足修理費として右金額を要したことが認められる。

9  将来の義足費 一七五万二九九五円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲二二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、大腿義足の製作費用は、一本三三万七五〇〇円であり、機能的にみて長くとも五年間の経過により製作し直す必要があり、原告の症状固定時の平均余命は五一年であり、中途で破損等で使用不能となることが有り得ること、その間において少なくない修理費用も要することが認められる。そうすると、その損害額は、右の諸事情に鑑み、修理費等維持にかかる費用の請求がなされていないことも加味すると、四年に一度製作し直すとするのが合理的であると考えられるので、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、原告の将来の義足費は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

三三万七五〇〇円+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の四乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の八乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の一二乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の一六乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の二〇乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の二四乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の二八乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の三二乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の三六乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の四〇乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の四四乗〕+三三万七五〇〇円÷〔(一・〇五)の四八乗〕=一七五万二九九五円(各数値ごとに円未満切捨て)

10  自動車買換損害 五万円

原告本人尋問の結果により原本が存在し、真正に成立したと認められる甲一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により右大腿切断の障害を受けたため、従前使用していた車両を使用することができなくなつたため、昭和五七年八月末ころ、五四年型ニッサンサニーカリフォルニアオートマチックに身障者のためにアクセルをブレーキの左側に付け替えた車両を相当額で購入し、その付替えの費用に五万円を要したことが認められる。原告は、右車両の購入代金全額を損害として主張しているが、買換前の車両は買換時の九年前に生産された四八年型トヨタセリカリフトバック一六〇〇STであり、早晩買換を余儀なくされるものであつたから、その買換代金全額を損害と認めることは相当ではない。

11  休業損害 四一九万二九六八円

原告本人尋問の結果により原本が存在し、真正に成立したと認められる甲一四号証の一、二、第一五号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一四号証の三、第一五号証の三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時株式会社餃子の王将チェーンに勤務し、その勤務終了後は、株式会社常善でアルバイトをして稼働しており、王将から月額一三万五七三三円、常善から月額四万〇九五〇円の収入を得ていたが、本件事故のため、昭和五七年三月七日から症状固定日である昭和五九年二月一六日までの七一二日間休業したものであり、原告の日収は、前記の収入から算出すると五八八九円(円未満切捨て)であつたことが認められる。したがつて、原告の休業損害は、これを基礎として次の計算式のとおり四一九万二九六八円となる。

(計算式)

五八八九円×七一二=四一九万二九六八円

12  逸失利益 五三三九万円

前認定の後遺障害及び休業損害についての各事実に、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和三四年五月一一日生まれで後遺障害固定日である昭和五九年二月一六日当時二四歳であり、前記のように、高校卒業後就職し、本件事故当時株式会社餃子の王将チェーン及び株式会社常善で稼働しており、前記収入を得ていたが、まだ見習い中であり、程なく前者の本社員になる予定であり、相当額の昇給の可能性があつたこと、前記後遺障害は、症状固定とされた後も、患部の症状が思わしくなく、治療を継続しており、右大腿部の断端の整形のための手術も必要とされていること等から、未だに再就職もしていないことが認められる。

右事実を前提に原告の逸失利益を検討するに、原告の年齢等を勘案すると、原告は、本件事故当時見習い期間中で、収入は低額であつたが、本件事故による後遺障害がなければ、将来の収入増が容易に推認されるところであり、本件事故当時の収入を基礎として長い将来に亙つて逸失利益を算出することは適切とは言い難く、前記後遺障害の症状固定後の症状、その他本件訴訟に顕れた諸般の事情を考え合わせると、原告の逸失利益は、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・高校卒・全年齢平均の男子労働者の平均賃金四〇五万七七〇〇円を基礎とし、前記後遺障害のため、症状固定時から六七歳までの四三年間に亙り、七五パーセントの労働能力を喪失したとするのが相当であり、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、原告の逸失利益は次のとおりの計算式により五三三九万円となる。

(計算式)

四〇五万七七〇〇円×〇・七五×一七・五四五九=五三三九万円(一万円未満切捨て)

13  入通院慰謝料 二八〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故により受けた傷害による入通院のための精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当であると認められる。

14  後遺障害慰藉料 一二〇〇万円

原告には前記後遺障害が残つたが、本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故により受けた後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当であると認められる。

小計 七八七七万四一五七円

15  好意同乗等による減額

前記認定の、原告が加害車に乗車した経緯に鑑みると、原告の右損害額から三割を減ずるのが相当である(円未満切捨て)。

小計 五五一四万一九〇九円

16  損害のてん補 一七九五万四五三九円

原告が、自賠責保険及び被告から一三七三万円、二五〇万円及び一七二万二五三九円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、その他二〇〇〇円の支払を受けたことは原告の自認するところであるから、これらの合計一七九五万四五三九円を右損害から控除することとする。

小計 三七一八万七三七〇円

17  弁護士費用 三五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人らに対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

会計 四〇六八万七三七〇円

六  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告に対し、四〇六八万七三七〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五七年三月七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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